今城哲二(日立製作所)
[組織] COBOLの言語仕様の開発・拡張・保守はCODASYL COBOL委員会(1959年設立)が担当し,標準化作業はISOとアメリカのCOBOL標準化委員会が担当してきた。この分業体制で,第1次(1969),第2次(1974),第3次(1985),第3次補遺(1989)のCOBOL規格は作成されたが,仕様の作成から標準化までの時間がかかりすぎるという問題があった。規格作成の工程短縮と人的資源の集中化のために,1992年にリストラクチャを行い,CODASYL COBOL委員会をアメリカCOBOL標準化委員会(X3/J4,現在の名称はNCITS/J4)に吸収合併した。
第4次規格の方針策定と重要項目の審議は,年1回開催のCOBOL国際規格委員会(ISO/IEC/JTC1/SC22/WG4)が担当している。メンバはアメリカ,日本,イギリス,ドイツ,オランダ,カナダの6カ国であり,日本からは今城(日立),高木(日立),野場(富士通),井上(NEC)が参加している。原案の作成はISO/IEC/JTC1からアメリカ(NCITS/J4:6回/年開催)に委託している。J4には,アメリカ以外からも参加できるので,日本から情報処理学会情報規格調査会SC22/COBOL WGが正式メンバになり,仕様作成の当初から直接関与しており,高木(日立)が毎回出席し,日本の意見を反映している。
[第4次規格の日程] 1992年から作業を開始した。当初の設定目標は,1997年であったが,1996年のCD(原案作成委員会草案)投票のコメントが1500件を超え,その解決のため遅延中で,現在は,FCD(原案作成委員会最終草案)投票開始が2001年2月,FDIS(国際規格推薦最終案)とIS(国際規格)の投票が2002年,発行が2002年12月の日程で推進中である。
[方針] COBOLプログラマは世界で約300万人いるといわれており,各国の企業・政府・団体の基幹業務用に膨大なCOBOL資産が蓄積されている。これらの人・組織が21世紀になっても安心してCOBOLを使い続けられる仕様にすることが,第4次規格の目標である。そのため,(1)現行規格からの完全互換と(2)21世紀に必須なプログラミング新技術の採用の2つを基本方針とした。
[主要追加変更項目]項目数は約150あり,変更項目の互換性の保持には細心の注意が払われている。
- オブジェクト指向機能:クラス・オブジェクト・メソッド定義とそれを呼び出すinvoke文
- 漢字などの多オクテット文字処理:picture句でのN指定(他オクテット文字データ項目の定義)と転記・比較・文字列操作
- POSIXのロケールに対応した地域・文化固有機能
- ブール(ビット)操作機能:picture句での1指定(ブール項目の定義)と転記・比較・論理演算(積-and,和-or,排他和-exor)
- 浮動小数点データの定義と転記・演算・比較
- アドレス付けとポインタ項目
- データ妥当性検査機能:データ定義の中に項目が取り得る値(の範囲)を列挙し,validate文で検査
- 利用者定義のデータ型
- 利用者定義の関数
- 例外割り込み処理:実行時の例外事象(入出力エラー,ゼロ除算,データエラー,添字の範囲外指定など)に対応し,エラー時の処理をuse節に記述
- ファイルの共用と排他制御
- 画面処理:screen sectionで画面様式を定義し,accept文とdisplay文で入出力
- カラムの制約のない自由形式の正書法
- 規格の第1,第2水準の廃止(規格準拠性の厳密化)
- 章構成を,中核,順ファイルなどの機能単位別から,division別に変更