ベトナム・ホーチミンの開発最前線を行く
~「現場」と「教育」の実態から探る、COBOL資産維持の新たな可能性~
2025年12月、COBOLコンソーシアムは設立以来初となる「海外視察」および「現地での幹事会」を実施いたしました。
訪問先は、近年IT開発の重要拠点として、また急速な経済成長を遂げるマーケットとして注目を集めるベトナム社会主義共和国です。
今回の視察の参加者は、COBOLコンソーシアム会長・東京システムハウス株式会社、副会長アクセンチュア株式会社、正会員・株式会社アイディーエス、FPTジャパン株式会社、準会員・株式会社SIT11(順不同)の各社代表者です。
現地の経済情勢の把握、開発現場の視察、そして現地での議論を通じて、当コンソーシアムの活動目的である「COBOL言語を更に広く普及させ、COBOLユーザの利益を守る」ための多角的な視点を得ることができました。
本コラムでは、3日間にわたる視察の模様をレポートします。
1. マクロ視点で知るベトナムの現在(JETRO訪問)
ホーチミン・タンソンニャット国際空港に到着し、まず肌で感じたのは街全体の圧倒的な「熱量」でした。
初日、一行は日本貿易振興機構(JETRO)ホーチミン事務所を訪問 。
現地駐在員の方より、ベトナムの最新経済概況、労働市場の動向、そして日本企業との関わりについてレクチャーを受けました。
今回確認できたのは、「豊富な若年労働力」と「国策としてのIT人材育成の加速」です 。
日本国内がエンジニア不足という構造的な課題に直面する中、ベトナムでは高い意欲を持った若者が次々とIT業界に参入しています。このマクロな視点を共有したことで、続く企業視察の解像度がより高まりました。
画像:JETROにてベトナム経済とIT人材市場の動向について説明を受ける一行

2. 「現場」と「教育」の両面から見る開発体制
「コストメリット」という観点だけで語られがちだったオフショア開発は、いまや「戦略的パートナーシップ」へと変貌を遂げていました。
今回、私たちはホーチミン市のIDS Vietnamオフィスを訪問。現地の「日本語対応ブリッジSE」を交えたディスカッションを行いました 。
議論の中で特筆すべきだったのは、彼らの「品質とコミュニケーション」に対する組織的なアプローチです。 資料や現場の説明から見えてきたのは、単に「日本語ができるエンジニアがいる」だけではない、堅実な開発体制でした。
単に仕様書通りにコードを書くのではなく、日本の商習慣や品質基準を深く理解し、長期的なパートナー(ラボ)として並走しようとする姿勢 。これこそが、日本のシステムを支える上で最も必要な要素であり、ベトナムという地が選ばれる理由であることを再確認しました 。
画像:現地の日本語対応ブリッジSEを交え、開発現場の実情について意見交換とランチ会食を開催

また、今回はベトナム最大手のIT企業であるFPTソフトウェアも訪問し、同社が展開する「COBOLアカデミー」の視察を行いました。
日本国内では技術者の高齢化と減少が止まりませんが、FPTでは「メインフレームリソース」を明確な成長領域と定義しています。2023年時点で1,500名以上の体制を、2025年には3,500名規模まで拡大する計画 が進行しており、日本のレガシーシステムを支えるための「圧倒的な受け皿」が用意されつつあります。
特筆すべきは、その教育カリキュラムの深さです。「COBOLアカデミー」では、単に言語(コーディング)を教えるだけでなく、JCLやTSOといった周辺技術 、さらには「詳細設計」「基本設計」への落とし込み や、「各業界の業務基礎知識」まで体系的に教育しています。 「仕様書通りに作る」段階を超え、上流工程から参画できる人材を組織的に輩出する仕組みが完成していました。
画像:FPTソフトウェアにて、COBOL人材育成の仕組みについて視察

現場のコミュニケーション力を強みとするIDSと、圧倒的なリソース供給力と教育システムを持つFPT。 アプローチは異なりますが、日本のCOBOL資産を「塩漬け」にせず、次世代へ継承するための重要なピースが、ベトナムの地に確かに存在していることを確認できた視察となりました。
3. 異国の地で議論を深める「現地幹事会」
今回の渡航には、視察と並ぶもう一つの重要な目的がありました。それは、「12月度定例幹事会」の現地開催です。 IDS Vietnamのオフィスにて、コンソーシアム設立以来初となる、国境を越えた幹事会を開催しました。
いつもとは違う、ホーチミンの活気あふれる街並みを窓外に望む会議室。 バイクのクラクションや建設ラッシュの音が微かに響く中、それらに負けない熱量で交わされたのは、日本のCOBOL資産の「これから」についてです。
「日本国内の閉塞感を打破する鍵は、この若さとエネルギーにあるのではないか」 「この現地の“熱”を、いかに温度を下げずに日本のCOBOLユーザー企業へ伝えるべきか」
視察直後の肌感覚を持ったまま議論することで、単なる報告会ではない、実体験に基づいた戦略論議へと昇華されました。写真には収まりきらない、ベトナムの熱気と幹事たちの想いがシンクロした、濃密な時間は、今後のコンソーシアムの活動指針に新たな視点をもたらすことになりました。
4. 都市の熱気から、開発の「未来」へ──持続可能なモデルを求めて
ホーチミン市での視察は、ベトナムの「今」を知る非常に有意義なものとなりました。
続く一行の目的は、COBOL開発の「未来の形」を確認することです。
優秀なエンジニアが再生産され続ける仕組みはどこにあるのか。
その答えを確かめるべく、一部メンバーはハノイから南へ150km、タインホア省のCOBOL専業企業System Sustainability Vietnamへと向かいました。
そこで目にしたのは、現地の大学と企業がAPIのように密接に連携した、持続可能な「開発エコシステム」の実装でした。
次回のレポートでは、タインホアでの「大学視察」および「COBOL専業体制」の全貌に迫る【後編】をお届けします。
