COBOLコンソーシアム初の海外幹事会を開催 【後編】-ベトナム・タインホア省の「COBOL専業体制」に迫る

ベトナム・タインホア省の「COBOL専業体制」に迫る
~レガシーを“再起動”する街。「SSV」に見る、COBOL資産維持の現実解~

前編では、ベトナム・ホーチミンにおけるIT市場の熱気と、開発現場の最前線をお伝えしました。 しかし、今回の視察の真の目的地は、そこからさらに北へ飛んだ先にありました。

「COBOL人材を、安定的に、永続的に確保する仕組みはあるのか」

その答えを確かめるべく、中野副会長ら一行はベトナム北中部のタインホア省へ移動。そこには、都市部とは異なるアプローチで構築された、産学連携による「COBOLエコシステム」の実装現場が広がっていました。
後編では、ベトナム初のCOBOL専門企業「System Sustainability Vietnam(以下、SSV)」および、その人材供給源である「ホン・ドゥック大学(Hong Duc University)」の視察模様をレポートします。


5. なぜ、ハノイでもホーチミンでもなく「タインホア」なのか?

ホーチミンから空路で移動し、タインホア省トースアン空港へ到着した一行。
ハノイから南へ約150kmに位置するこの地が、COBOLの戦略拠点として選ばれた理由は、「人材の定着率(サステナビリティ)」にあります。

大都市圏ではIT人材の獲得競争が激化し、ジョブホッピング(短期離職)が一般的です。
しかし、基幹システムを支えるCOBOLの保守・運用には、腰を据えてシステムと向き合う長期的な安定性が不可欠です。 タインホア省は、勤勉な県民性を持ち、地元志向の強い優秀な若者が多いエリアです。ここでSSVは地元の名門・ホン・ドゥック大学と提携。年間150名以上のIT系卒業生に対し、COBOL基礎教育と日本語教育を提供しています。

画像:SSVの提携大学であるホン・ドゥック大学。多くの学生がここからCOBOLエンジニアとして巣立つ

今回の視察では、大学関係者を交えた議論が行われ、単位認定や学位連携も見据えた「地域ぐるみ」の人材育成が着実に動いていることを確認しました。


6.「捨てられないシステム」を誰が守るのか? ─中野副会長が語る“人材配置”の戦略論

日本のCOBOL技術者不足は深刻です。しかし、今回の視察で浮き彫りになったのは、単なる「人手不足の穴埋め」ではない、よりマクロな視点での戦略的意義でした。
視察に参加した中野 恭秀 副会長(アクセンチュア株式会社)は、現地での議論の中で、「日本の若手人材のリソース配分」という観点からSSVのモデルを高く評価しました。
「日本国内の労働人口が減少する中、日本の貴重な若手人材は、企業の成長領域であるDX(デジタルトランスフォーメーション)に投入すべきです。 一方で、企業の業務を回しているSoR(System of Record)領域、いわゆるCOBOL資産もしっかりと維持しなければなりません。ここを誰がやるのか。
成長領域に行きたい日本の若手を無理にレガシー維持に縛り付けるのではなく、COBOL維持の専門部隊を、人材が豊富で定着率の高いベトナム・タインホア省に構築する。これは、日本とベトナム双方の強みを生かした、極めて合理的な『人材配置の最適化』だと言えます。
「COBOLシステムを捨てる」のではなく、「維持する場所と人を最適化する」。SSVの存在意義が明確に言語化された瞬間でした。

画像:現地視察を通じ、日本とベトナムの役割分担について語る中野副会長


7. 日本のメインフレーム文化への適応力

今回特に驚いたのは、ベトナムの現地企業が単なるオフショア開発拠点としての役割にとどまらず、日本独自の国産メインフレーム文化や、そこに紐づく方言(COBOL-Sなど)にも 対応できる人材を育成しているという事実でした。
現地で実践されている主な対策は、以下の3点です。

■次世代型COBOL人材の育成
タインホア省でもっとも優秀とされているHonDuc大学にてITの基礎はもちろん、AIやクラウドなどの現代技術を学んだ若手にCOBOLを教育を実施。新旧の技術を知ることで、将来的なモダナイゼーションの担い手としても期待されます。

■「言葉」だけでなく「業務」を理解するための教育工夫
COBOLシステムの保守において最大の壁となるのが、言語仕様よりも「業務ロジック(会計、物流、金融などの仕組み)」の理解です。 そのため、日本語教育に加え、日本の商習慣や業務フローに関する基礎教育を導入。単なるトランスレーター(翻訳者)ではなく、システムが担う業務の意味を理解できるエンジニアの育成に注力し、オフショアの課題である「仕様理解の壁」を低減させる工夫が見られました。

■日本基準の品質管理体制
日本での開発経験を持つベトナム人リーダーが現場を牽引。さらに、品質管理に強みを持つSanAn Corporation(現地企業)と、日本側インターフェースを担う株式会社アイディーエス(IDS)が連携し、教育・品質・実務が一体となったスキームを構築しています。

「COBOL専業」という覚悟。 何でも屋ではなく「システムの維持・永続性(Sustainability)」に社名を冠する通り、長期的な保守運用に特化していることを強く実感しました。


8. 編集後記:COBOLコンソーシアムとしての確信

今回の3日間の視察を通じて見えてきたもの。それは、「COBOLは終わらない、場所を変えて進化している」という事実でした。
日本国内だけで「不人気言語」と嘆くのではなく、視野を広げれば、そこには熱気を持ってCOBOLを学ぶ若者たちがいます。 株式会社アイディーエス 代表取締役であり、SSVのCEOを務める柴田 達真 氏はこう語ります。
「このタインホアの地で、COBOLを学び、手を動かす人材が育っていること。これは私たちサービス提供側にとっての希望であるだけでなく、日本のユーザー企業の皆様にとっても『システムを使い続ける』という選択肢を守るための、確かな希望になると信じています」
COBOLコンソーシアムは、今後もこうした海外の動向を含め、COBOL資産を次世代へつなぐためのあらゆる可能性を探求し、発信してまいります。

(2025年12月 視察実施)